一厘 ichirin

手仕事による和雑貨と、ぬくもりのライフスタイル

木地の山中が「縦木取り」にこだわりつづける理由

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全国にいくつかある産地の中でも、ここ山中だけで行われている特殊な方法がある。「縦木取り」と呼ばれる木材の切り出し方だ。

通常の産地は原木を成長方向にスライスした板材を使うのに対し(横木取り)、山中は輪切りにした材を使う。料理を例にしていえば、短冊に切るか、輪切りにするかの違い。

縦挽きで作ったお椀はテーブルに置いたとき、原木が上に向かって成長するままの方向を向いている。年輪に対して素直な角度なので、強度があり歪みや収縮に強い。それでは、なぜ他の産地がやらないかというと、材料効率が悪いという縦木取りの欠点が挙げられる。同じ一本の木から椀をとるのであれば、橫木取りの方が多くの椀をとれる。

木地は最終的には職人ひとりひとりの手で轆轤(ろくろ)にかけられノミがあてられる。繊細な轆轤挽きの技を生かすためには、木の強さを引き出せる縦木取りにこだわるのが山中流なのだ。

 

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縦木取りの特徴である材木の輪切り。横木取りの材木は長方形にスライスされた板状になる。縦木取りの場合、写真のように材の芯部は使えない。

 

歪みに強い縦取りが精度の高い加工を可能にする

通常、木材は乾燥すると大きく歪む。木地師はこれを「木が動く」という。

熟練の木地師になると、挽いているあいだにも木が動くのが分かるそうだ。

さらに縦木取りした木は三年から五年かけてじっくり乾燥させる。とにかく歪みに強い。この材料の特質なしには山中の木地師が得意とする「薄挽き」や「千筋」は語れない。

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