一厘 ichirin

手仕事による和雑貨と、ぬくもりのライフスタイル

山深い温泉街が「JAPAN」に光明を灯す

英単語「JAPAN」のもうひとつの意味をご存じだろうか。なんと「漆器」である。

なぜ「JAPAN」が「漆器」なのか。「CHINA」が「陶器」を意味するのと同じように、英語圏の人たちにとって日本の漆芸の完成度はそうとうなインパクトをもって受け入れられ、明治期まで漆器は日本の重要な輸出品目だった。

そもそも漆芸は中国伝来といわれていたが、近年の研究により、最古のものは縄文時代、 12600年もの昔の漆芸品が出土している。DNA鑑定でそこに使われている漆は日本の固有種であることも解明され、世界最古の漆芸は日本であることが明らかになった。

漆という素材は、木が自らの傷を癒やすために出す液体で、いわば接着剤である。しかしこの接着剤は、現代科学をもってしても超えることのできない強力な塗膜を作る。しかし扱いが難しく、その能力を発揮させるためには高い技術と繊細な環境とが必要とされた。

気の遠くなるような長い歴史の中で磨き上げられてきた日本の漆芸だが、じつは今、存亡の危機にある。戦後に加速した日本人のライフスタイルの急速な変化によって、木をベースとした漆器の需要が激減したのである。日本の各地で発展した漆芸も現在では代表的な40ヶ所を数えるのみとなった。それらの産地でも多くは後継者難と需要減に悩まされている。

そんな中、長い歴史を持つ伝統技術を生かしつつ、現代的な解釈を施すことによって新たな光明を見いだした進取の産地がある。今や、全国一の生産量を誇る越前・山中だ。

漆器=木のベースという常識にとらわれず、工場での量産が可能な化学樹脂をベースに用い、漆の代わりに扱いやすく安価なウレタン塗装を導入したことで、合成漆器(近代漆器)という新しい突破口を生み出した。

今、日本のみならず世界で流行している弁当箱。生活雑貨専門店に行けば、まず入口近くにランチボックスコーナーがあり、若い女性をはじめとした人々が色とりどりの弁当箱や塗り箸を手に品定めをする姿を見ることができる。そんな売り場に気がついたら、足を止めて弁当箱の裏側をそっと見てほしい。「山中」という産地を目にすることができるはずだ。

そうそう、「BENTO」という語も、「SHINKANSEN」「MOTTAINAI」と並び世界共通語となっている。