一厘 ichirin

手仕事による和雑貨と、ぬくもりのライフスタイル

温泉が育んだ進取の精神・・山中のとりくみ

石川県には3つの漆器産地がある。

まず、思い浮かぶのは輪島塗りだろう。小学生のとき社会の資料集でその美しい漆器を目にした人も多いはずである。

次に兼六園をはじめとした加賀百万石の絢爛豪華なイメージの金沢。そのイメージと違わず、金沢は「蒔絵(まきえ)」という漆器への加飾、つまり、金粉や巧みな筆遣いを駆使した漆器の仕上げ技術が強みの産地である。

残るひとつは?

「山中」(やまなか)という地名がすぐには思い浮かばないかもしれない。しかし輪島、金沢に比べ、やや地味な印象の「木地の山中」こそ、今や全国一の生産額を誇り、国内のみならず世界に製品を送り届ける世界的な漆器のメッカなのだ。

 

総じて国内の伝統産業は厳しい状況にある。
ライフスタイルの変化による需要の減少、後継者不足・・。しかしそれだけではないようにも思う。伝統産業は「伝統」という由緒正しさをあまりに重んじすぎていなかったか。時代が変化しても、頑として変わらぬことが正しいという信念に縛られすぎてはいなかったか。誰も使わなくなった伝統工芸品があるとしたら、それは伝統技術に問題があるのではなく、その技術を現代のニーズに生かそうとする何かが足りなかったのではないか。

外に目を向ければ、皮革職人が守ってきた伝統技術をベースに気鋭のデザイナーを取り入れることで現代性を獲得し、世界的ブランドへと飛躍させたイタリアの工房などを見るに、日本の伝統産業でそのような例がないことが残念でならない。

 

そんな中、漆器という伝統芸に思い切った現代的解釈を取り入れ、数少ない成功事例として、引き続きたゆまぬ努力をつづけているのが山中である。

異業種・異分野の技術導入を臆せず、各社、各工房、各職人が進取の精神で切磋琢磨してこれたのは、進取の気性にあふれた土地柄というだけでなく、古くから国内代表格の湯治場であり、松尾芭蕉をはじめ、全国から有名無名、多種多様な人と情報が集まってきたという背景もあるかもしれない。

近年では、PET樹脂による給食食器市場への展開、フランスをはじめとした海外販路の開拓、環境という世界的な流れを取り込むバイオマス樹脂の導入など、その努力が止むことはない。