一厘 ichirin

手仕事による和雑貨と、ぬくもりのライフスタイル

弁当忘れても、傘忘れるな(石川県山中)

天気予報は晴れだった。

雨が降っている。山中温泉。

ときどき、ざあっと、旅館の部屋にいてもちょっと身構えてしまうほどの音を立てる。新緑の沢から立ちのぼるごうっという唸りとまじって渓谷に響き渡り、すさまじいことこの上ない。

 

「弁当忘れても、傘忘れるな」

 

弁当箱をはじめとする合成漆器の産地として国内筆頭の山中。山中漆器の職人さんたちへの取材で山中温泉入りしたわけだが、窓の外の雨を眺めながら、前日、木地職人に聞いた言葉を思い浮かべた。まさに「弁当忘れても、傘忘れるな」である。

そのぐらい雨が多い土地柄である。

 

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かつてこの場所は、日本海側の物流を担った北前舟の船頭さんたちの歓楽の場であり、湯治場だった。

どおんと稼いで、ぱあっと使い、ゆっくりと湯につかって次の船出にむけて英気を養う。そんな船頭たちの姿が目に浮かぶようだ。

 

ライバル心をもって技術の向上で研鑽しあっていた職人や、産地問屋も、みんなひとつになってひとつの湯につかる。

そんな不思議な風土が生み出した漆器は、伝統と現代性とが溶け合った、ちょっと不思議なものに見えてきた。