一厘 ichirin

手仕事による和雑貨と、ぬくもりのライフスタイル

分業との決別。親子二代の挑戦(越前・土直漆器)後編

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(写真:越前漆器の里・河和田の町なみ)

 

【・・前編からつづく・・>前編はこちら

 

 業務用漆器で国内80パーセントのシェアをもつ越前漆器の産地、福井県鯖江市河和田。

 業務用に求められる耐久性とコストパフォーマンスを兼ね備えつつ、樹脂やウレタンの合成漆器ではなく、あくまで木と漆の伝統漆器で勝負を賭けるのは、土直漆器の若き二代目、土田直東さんである。

 

 

若き二代目の挑戦

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土田直東さん(土直漆器・代表取締役社長 )※写真は公式サイトから

 

  土直漆器の創業者・土田直さんの長男である直東さんは高校卒業後に上京。専修大経営学部で情報管理学を修め、渋谷に拠点を置く音楽業界大手でバイヤーとして、伝統産業とはまったく別の道を歩んでいる。文化・流行の最前線にどっぷり浸かるという異色の経歴を土産に地元、河和田にもどったのは27歳のときだった。

 とはいってもそこは伝統技術の河和田。誰であろうと知ったもんかである。他の見習いと同じく二年間の「下地づくり」を経て、「中塗り」を一年、塗りの最終工程である「上塗り」に行きつくまでには地元に帰ってから四年以上の月日が流れていた。

 職人としてやっと一人前になったとはいえ、下地二年、中塗り一年、上塗り一生の世界。上塗りを担当しながら寝る時間を削り、あるいは歩きながら、伝統漆器と会社の将来について考えつづけた。

 社業を引き継いだとはいえ、自身が主力の職人でもあり、経営や新しいビジネスに専念できるだけの時間もなかなかとれない。それでも、ここ数年で若いスタッフも増え、作業を少しずつ任せられるようなってきた。

 いま、土田さんがこつこつ時間を見つけて取り組んでいるのは、受け身ではなく自ら漆器の新しい可能性に光をあて需要を創造することである。もちろんそれは伝統産業の若き担い手なら当然の使命ともいえる。父親から引き継いだ社内一貫生産態勢は、ビジネスを考える上で強力な切り札であることは間違いない。しかし切り札は同時に大きなリスクも伴う両刃の剣でもあった。

 

 

伝統技術を、自由な発想で。

 

 1000回以上の食器洗浄機テストや煮沸テストでも変色・艶落ちしない。・・そんな夢のような伝統漆器が土直漆器のオンラインショップを開けば、一般の人でも日常用として買うことができる。

 この「堅牢シリーズ」は、文化財や社寺仏閣の補修のために開発された特許製法の純度の高い漆を用いて実現した。業務用だけでなくインターネットで日常用品としても提案する。オンラインショップも親しみやすく洗練された構成だ。

 また、現代を象徴するツールであるスマートフォンのカバーという激戦区にも参入。それは市場によく出まわっている漆風やプリントものとは一線を画し、あくまで伝統技法で製作されている。職人が銀で描いた蒔絵を透き漆で包み込み、実用に耐える耐久性と低価格を実現したのも業務用で鍛えられた確かな技術と社内一貫生産方式の結実といっていいだろう。

 他にも、越前の新しいシンボルとして打ち立てられた「恐竜」デザインの漆器や、新進気鋭のデザイナーとのコラボ作品など、伝統に縛られない発想で新境地に切り込む。もちろんその目は国内のみならず、かつて「漆器=JAPAN」として瞠目させた海の向こうの「世界」を見据えている。

 

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土直漆器オンラインショップより抜粋)

 

 

 

学校給食で培われる河和田の誇り。

 

 越前・河和田の学校給食では、食器として本物の伝統漆器が使われている。土直漆器の「堅牢シリーズ」である。

 道具は使えば傷む。傷めば捨てる。捨てることを前提にするから、良い物は使えない。そんな常識を打ち破った「堅牢シリーズ」。漆器はたとえ壊れても、何度でも補修ができる利点も。

 それに漆の色は時間の経過とともに成長もする。漆ならでは溜色(ためいろ)が、年月を取り込むほどに飴色を帯びていき味わいを増していく。その深みのある色をつくり出せるのは、ただ歳月だけである。

 良い物をたいせつに使う。たいせつに使えば、物がこたえてくれる。地域の文化と誇りを小さな手でしっかり受け取めながら、河和田の子どもたちは育っていく。

 

     *

 

  土田さんは今日も、新しい発想と伝統技術の潮目の中で、世界へほとばしる潮流を見逃すまいと舵を握る。大学卒業後、情報流通の最先端で働いた渋谷での経験は無駄にはなっていない。帰郷後、いちから職人としての修行をした年月もそうだ。ビジネスマンと職人の両方の視点。

 社内一貫生産のリスクを打ち消し、強みを生かすために土田さんが重視しているもの。それは、スピード感だという。

 多品種少量生産という機械が苦手とするスキマを突けば、職人の手仕事の強みが生きてくる。しかし外注の職人では意思疎通に時間がかかり、新しい試みを貪欲に呑み込むグローバル展開のスピードに遅れをとる。社内一貫生産というチームプレーによって伝統技術と新しい価値を素早く結びつけ、その大きく速い潮流をつかまえようとしている。

 そんな土田さんだが、根っこにあるのは父親から受け継いだ職人の熱い血。

「暇さえあれば塗ってます」

  そういって笑う表情に曇りはなかった。

 

 

>土直漆器オフィシャルサイト

>土直漆器オンラインショップ(楽天ショップ)

>越前漆器共同組合オフィシャルサイト