一厘 ichirin

手仕事による和雑貨と、ぬくもりのライフスタイル

図書館製本の真骨頂

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16世紀のヨーロッパの書物をエルビーエスで復刻した本。デザイン性の高さに目を奪われる。

 

 

補修も仕事。

 

前段では図書館製本のうち「造本工程」を論文製本の例を用いて見てきた。

一方、長い年月を経て傷んだ完成本を補修したりリメイクする作業も図書館製本の重要な役割である。

本の表紙や背をていねいに分解し、複数の折り帳の状態にまで戻す「こわし」という作業。

折り帳についた癖をとる「ならし」という作業。

この段階で破れたページも丁寧に補修する。刃物でスパッと切ってしまったようなページの補修は難しいが、裂けたり、破れたページであれば、特殊な糊を使い、職人の手作業で破れていたことが分からないぐらいまでに補修することができるという。

化粧断ちをすることで、古びたページも美しく蘇る。場合によってはページの組み替え、間引きなど、顧客の要望によって行うこともある。

 

 

図書館製本の新たな可能性。

 

 誰にでも大切な本はある。

 それは、もしかしたら母から譲られたぼろぼろの小さな料理冊子かもしれないし、古い家電製品の説明書かもしれない。他人にとっては価値がなくても、その人だけに深い意味を持つ本というものがある。

 そんな本を美しく耐久性の高いものに製本し直すというサービスがあったらどうだろう。戦前・戦後の書籍に幅広く使われた酸性紙は経年劣化が進みやすく、今ではぼろぼろになっているものも多い。完全に崩れてしまう前に腐食しにくい中性紙にコピーをとり、それを持ち主の好みの体裁で製本する。

 高性能なコピー機を使うので、縮刷版にしたり、逆に大型本に仕立て直すといった可能性もあるだろう。表紙も重厚な厚紙や皮革で重厚な装飾を施すのもいいし、逆に薄手で耐水性のあるコーティング用紙で気楽に使えるようにすれば、母から譲られた料理本も蘇るし、同じものを数冊作っておけば、娘、孫たちに配ることもできる。

 そんな図書館製本師の技術を生かした新たな可能性・・ちょっとおもしろくありませんか?

 

 

本の名を持つ、まさに本の職人。

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 エルビーエスの本間さんは、経営を息子さんと共同事業者に任せ、自らは会長として製本職人の技を守っている。

 製本の世界でも効率重視、グローバル化の波は例外ではない。本間さんにとって製本とは、この先、その本が過ごすであろう何十年、何百年という時間を意識する作業だともいう。すべての工程がほぼ手作業なだけに、職人の力量や、本に対する愛情が、その本の寿命を左右する。しかし手間をかけた仕事をしても、そのことを実感してもらえるのは、はるか未来のこと。

「効率、効率っていってね。安さだけが求められるんですよね」

 手をかけて製本し納品した本。これまでは「備品」として扱われていたのに今は「消耗品」に区分けされるようになった。力抜けますよ、と少しさびしそうな本間さん。

 今まででいちばん印象に残った仕事は? と訊ねると、一冊の本を持ってきてくれた。西暦1600年ごろの原書をコピーして復刻したものだという。このときは、商売道具を持って博物館に出張し、原書の修理も行なったそうだ。そのとき触れた皮革の表紙は、400年前の職人の息づかいの感じられる素晴らしい仕事だったという。何百年もの歳月にも耐えてきた。もちろん手入れは必要だ。皮は生きている。昔はちゃんと卵の白身を薄く塗って栄養を与えていたとか。

 ふたたび熱を帯びはじめた本間さんの話を聞いていると、そこにある本が、ほんとうに生き物のように見えてきた。

(おわり)

 

>株式会社エルビーエス・オフィシャルサイト

 

 

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