越前漆器・製作工程(1)木地固め
へら削り。
塗りのすべてはここからはじまる。見習いさんが最初に習うのも、ここから。一日、何十本も、ひたすら削る。
木べらは塗りの第一工程である「下地」に使う道具。
木べらに用いられる二レの木は、下地づくりに欠かせない適度な反発力としなりを持つ。追随しすぎてもいけないし、反発しすぎてもいけない。
なぜだか、二レの木はぴったりだ。
下地を施すお椀のかたちに合わせて、くる日もくる日も二レの木を削っているうちに、見習いさんたちは気づく。
なんだか自分のことみたいだ。
追随しすぎてもいけないし、反発しすぎてもいけない。
「下地二年」とは言うものの....。
「端布(はたぬの)」を使った「木固め」の作業をしていたのは、千葉生まれの前田智子さん。土直漆器のホームページを見て、はるばる門戸をたたいた情熱のひとだ。
大学卒業後に東京でOLをしていた二年目、ふと思いたって京都で伝統工芸の学校に二年通い、さらに塗りで全国的に有名な輪島で三年修行。でも土直漆器に入って、まさか下地から出直しとは、なんて思ったことないですか?
「塗りの仕事は奥が深くて・・」ときっぱり。「自分の思いだけではいい仕事ができないなあって、日々、感じてます」
木固めは生漆を木地全体に摺り込むことで、表面のなめらかな強度の高い木地にする大事な工程。ここがしっかりできていないと、その後の工程に狂いが出てくる。業務用だけに強度に妥協はできない。まさに縁の下の力持ち。上塗りの美しさを引き出すのも、この土台あってこそ。
「毎日がこわいくらいに楽しくてしょうがないです」という前田さん。さいきんは、ときどき次のステップの中塗りもやらせてもらえるようになったそうだ。
生漆と砥粉を混ぜて作る「錆漆(さびうるし)」。
生漆と澱粉のブレンドは「糊漆(のりうるし)」。
調合は日によって違う。
天気は? 気温は? 湿度は?
日々、漆の小さな声に耳を澄ます。