一厘 ichirin

手仕事による和雑貨と、ぬくもりのライフスタイル

貴族社会の製本師と、現代の製本師

屋敷住み込みの製本師。

 

かつてフランス・イギリスを中心に欧州には製本師と呼ばれる人たちがいた。

 製本師が仕えたのはおもに貴族階級。屋敷に住みこみ、その職は子、孫へと代々、引き継がれる。

 現代では製本という仕事は馴染みが薄い。本はどこでも手に入る時代だが、その本がどこでどのように作られているかなんてことを、いちいち考える人はいないだろう。なぜ製本が当時の貴族生活になくてはならないものだったのか。

 じつは本というもの自体、もとは表紙も装丁もない仮綴じの状態で売られていた。仮綴じの本を手に入れ、自分の好みの表紙で製本する。実際には、屋敷つきの製本師の手仕事で、一族特有の装丁や家紋が施された。本は書庫に大切に保管され、傷んだものや壊れたものは製本師がチェック、修復し、日常的にメンテナンスされていた。これらの本が何代にも渡って引き継がれ、蓄積された蔵書(ライブラリー)は、まさに一族の品格を位置づける財産だったわけである。

 

 

現代の製本師。図書館製本。

 

かわって現代。本と呼ばれるもののほとんどの製本は出版社を頂点とした産業構造の中で行われている。これら「出版製本」に対して、ほんのごく一部に、職人の手による昔ながらの製本もなされている。これが「図書館製本」である。

図書館製本の活躍の場は、字の通り図書館をはじめ、古文書などの希少品を扱う世界、論文を製本化する需要がある大学等の研究機関、また愛蔵家による自家製本という需要も近年は増えてきている。

ただ公共事業において価格至上主義的な入札制度が広がるなか、製本業者も無関係ではいられない。長期保存を目的とした図書館製本が活躍する場は、図書館、研究機関、学校、博物館など、その多くは公共施設である。厳しい入札プロセスの導入で、多くの製本業者が割に合わない仕事が増えたと感じている。製本は安ければいいというものではない。知の資産である蔵書が、安い額で無理をした粗悪な製本でよいのか、という思いは図書館製本に携わる者たちの共通の思いである。

 

写真:図書館製本によって作られた本

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