越前漆器・製作工程(2)下地
布着せから、錆付け、そして錆固め
業務用の漆器に求められるのはコストだけではない。要求される強度と耐久性は、一般家庭用の比ではない。構造的に弱い部分、ぶつけやすい部分、傷つきやすい部分には「布着せ」といって、麻布や寒冷紗を糊漆(のりうるし)で貼って補強する。これはいってみれば接着剤。
次は「錆付け」と呼ばれる下地のメイン工程。糊漆はでんぷんと生漆を調合したものだが、錆び付けに使う「錆漆(さびうるし)」は砥粉(とのこ)と生漆(きうるし)のブレンド。
まず錆漆を椀の形状に合わせて手作りした木べらで平らに塗りつけ、補強布の目地を埋めていく。乾燥と研ぎ出し、再度、錆び付け、乾燥、研ぎ出し。これを三回。
錆固めは下地の最終工程で、生漆を全体に摺り込む。これでやっと下地のできあがり。
錆付けを行う木村さんは伝統工芸師の認定を受けたベテラン社員。伝統工芸師は大臣認定の国家資格として1974年に誕生した制度で、産地に居住し12年以上の職務経験が条件となっている。個人で伝統工芸師の認定を受ける職人さんがほとんどで、木村さんのように会社員としての取得はめずらしいという。
写真で木村さんが手がけているのは、本来は補強のために部分的に施される布着せを装飾目的で椀の外側全体に施したもの。粗い布のもつ味わいを生かす繊細な錆付けの技術が求められる。
研ぎ出す。
上塗りをすれば見えなくなる下地。
しかし、なめらかな下地がなければ、滴らんばかりに艶やかな上塗りは得られない。
下地の美しさが、上塗りの色あいに幽邃な水底の深みを与える。
だから研ぐ。ひたすら、・・研ぐ。